「流れよ我が涙、と孔明は言った」三方行成
何気なくTwitterを見ていると、ふと以下の記事が目に入った。
これは世にも珍しい、車とつがうドラゴンの物語だ 三方行成「竜とダイヤモンド」お試し版|Hayakawa Books & Magazines(β) @Hayakawashobo|note(ノート) https://www.hayakawabooks.com/n/n60839932ecce
もちろん、「車とつがうドラゴンの物語」の部分で目がとまった。
ぼかしてはいるがドラゴンカーセックスの事だ。そして二度見した。
リンク先が「ハヤカワSFのNote」なのだ。商業誌で?いったいどういう話なんだ?
あまりに衝撃的すぎて気になったのでリンクをタップした。とても面白く、すぐに引き込まれた。気が付くとAmazonでKindle版を購入していた。
そして俺は今こうやって感想を書こうとしている。とても恐ろしい本だ。
この本には5つの短編集が収録されている。
順に感想を書こうと思う。
流れよ我が涙、と孔明は言った
硬かったのである。
うんうん。そうか。硬くて切れなかったんだね。
いや、そうはならんやろ!
ツッコミを入れる読者を置いて物語は進んでいき、やがて大地から馬謖が生え、馬謖を使った饅頭や馬謖という牌が出現し、世界は馬謖で繋がる。
この話だけで一生分の馬謖を目にした気がする。
「いいっすよねぇ孔明さんは。泣いて馬謖を斬ってれば仕事になるんですからさあ」
めちゃくちゃに笑ってしまった。
実は三国志の知識が皆無に等しいので馬謖についてググった。知らなくても読める。
折り紙食堂
なぜか3話もある。各話は繋がっているかもしれないし、繋がっていないかもしれない。あるいはその両方かもしれない。
1話は「エッシャーのフランベ」
エッシャーはだまし絵で有名なエッシャーだろう。フランベは料理に酒をかけて燃やす調理方法だ。俺は料理に詳しくないのでこの程度のちしきしかない。しかし読める。なぜならこの話はきがくるっているからだ。
この話だけで終わっていれば謎の感動のようなものを感じたまま終われたかもしれない。しかしこの話は3話もある。油断するな。
2話のタイトルは「千羽鶴の焼き鳥」だ。
<折り鶴崩壊>フォールド・アウトによって崩壊した世界で「あなた」は食料を探しさ迷っていた。
いやまて、どういう話だ。さっぱりわからない。最後まで読んでもさっぱりわからなかった。分かったのは折り鶴からは焼き鳥の味がする、ということぐらいか。(どういうことだ?)
3話は「箸袋のうどん」
ここにきて更に話の意味不明さに拍車がかかる。最後まで読んだが本当に何一つ理解できなかった。
きっと作者には俺の見ている世界とは別の世界が見えているのだろう。さもなくば病名のある精神状態のどちらかだ。
文章力が非常に高く、「読んでいる」というより「引きずられている」というような感覚になった。
何気ない日常から非日常へと迷い込む流れはとてもスムーズで、読んだ後はまるで自分も先ほどまで折り紙食堂に居たような、そんな気持ちにさせるような文章だった。
これからは使い終わった割りばしを折らないようにしよう、と思った。
しかし、結局折り紙食堂の店主は結局何者だったのだろうか。一生理解できる気がしない。理解できる時はきっと、折り紙食堂に足を運んでしまうまで来ないのだろう。
走れメデス
折り紙食堂によって破壊された脳みそに突如ねじ込まれる走れメロス+アルキメデスの原理!あまりの温度差に読者はしめやかに爆発四散!
総合格闘家と化したアルキメデスがアルキメデス・パンチやアルキメデス・キックで物事を解決し、落雷によってバグったセリヌンティウスが王冠を増やしたりする。どういうことだよ。読めばわかる。因みにメロスは影も形も出てこない。
アルキメデスには何もわからぬ。王の元へと出入りして、知恵を出すよう迫られた。知恵が出ないので手を出した。
アルキメデスパンチ!アルキメデスキック!アルキメディアン・スクリューパイルドライバー!(原文ママ)
出だしからこれである。笑いが止まらなかった。
どうして走れメロスはここまでネタにされやすいのか。やはり知名度なのだろうが、物書きを惹きつけてやまない魅力があるのかもしれない。
今気づいたがタイトルの走れメデス、歩き(アルキ)メデスの対になっている。やられた。
闇
初出:『人は死んだら電柱になる:電柱アンソロジー』
電柱アンソロジーとは。世界は広いんだなぁ…
ここまで突拍子のない話が続いてきたので今回もそういう類の話なんだろうな、と思いつつ蓋を開けてみると舞台はポストアポカリプスかつ閉鎖空間。不穏な匂いしかしない。
人が死ぬと電柱になる世界で、明かりの外からやってきた「彼」との交流を経て段々と明らかになる世界。
じわじわと首を絞めてくるような感覚を覚えた。
タイトル通りの、暗く影を落とすような読後感。ぜひ自分で読んでリアルに声を出して欲しい。
竜とダイヤモンド
初出:『 WHEELS AND DRAGONS ドラゴンカーセックスアンソロジー』
インパクトが強すぎる。世界は広いんだなぁ…
まさか商業誌で「ドラゴンカーセックス」なんて文字列が躍ってるところを見ることになるとは思わなかった。よく見ると表紙絵にもきちんと「ある」。
確かに中身は下ネタなのだが「俺」と「坊ちゃん」の掛け合いが非常にテンポが良く、軽快な語り口調と合わさってするすると読めてしまう。
そしてクライマックスの全てが噛み合い収束していく様は見事、としか言いようがない。
読後感もとてつもなく爽やかで、メインテーマがドラゴンカーセックスで無ければ万人に勧められたかもしれない傑作。感動した。
総評:確実に人を選ぶが個人的にはとても満足した1冊。こんな拙い感想でも、少しでも気になった人はぜひ手に取って読んでもらいたい。